観客を味方につける!〜惹きつけるショット選択〜

動画解説

本日の動画

今回の解説動画は、ハノイオープン2023の決勝戦、Jayson Shaw対Albin Ouschanの試合を解説します。
二人とも常に世界大会の決勝トーナメントに進出する常連で、非常にレベルが高いです。

今回はお二人のうち、Jayson Shaw選手にスポットを当てていきたいと思います!
Shaw選手は見た目がいかつく怖そうに見えるかもしれませんが、モスコニカップでは観客を盛り上げたり、スーパーショットを連発してくれるベテラン選手です。
ただし、不運なことにメジャー大会で優勝の経験はほぼありませんでした。
そんな中で決勝まで駒を進めることができたこの大会はまさに、Shaw選手だからできた選択肢だなというショットがありましたので、そちらについて解説していきます。

今回もネタバレがありますので、結果を先に知りたい方は、下記の動画を見てから、考察を読んでいただけますと幸いです。

🎯 勝負の分かれ目 – Clutch Moment

この試合のターニングポイントは、第18ラックのマッセショット!

最初に断っておきますと、マッセショットを選ぶと、「なんだ、すごいショットなだけか」という印象を持ってしまう方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、このショットの流れやショット選択肢が試合でも役に立つと思い選ばせていただきました。

なので、マッセショットを練習した方が良いとかではなく、なぜそういう選択肢を取ったのかという思考をご紹介できればと思います。

なお、筆者はマッセなどできないため、このショット自体の真似はできないです笑

🏟️ 試合の流れ

ここからネタバレがありますので、ご注意ください。

この試合については、Ouschan選手がかなり優勢で、途中経過で5−10の時もありました。
しかしShaw選手も意地を見せて7−10としたところの第18ラックのブレイクで問題が起こります。

まずはブレイク後の配置をご覧ください。

Shaw選手にとっては、とても不運なブレイクですね。2番が隠れていますし、4番とくっついてしまっていて、クッションもうまく利用できず、これはプッシュアウト(ブレイク後に意図的にファールできる権利)するしかない状況です。

2番が穴前なので、短クッションの真ん中ではOuschan選手なら取れてしまうななど思っていた矢先、Shaw選手が取った選択肢が驚愕です!!!!!

?!?!?!
なんと4番にくっついているのを動かしはしましたが、ほとんどさっきと変わらないポジションです。
しかもShaw選手はこのショット選択にエクステンションをとっています。

プッシュアウト後は相手の選手がショットに挑戦するか、パスするかを選ぶことができます。
普通は見に行ったりしてからパスするのですが、この時のOuschan選手は席すら立つことはなく、むしろ苦笑いでした笑
おそらくビリヤードを少しでもやったことがある人ならみんな苦笑いすると思います。

その中で、一人颯爽とそのままショットに向かうShaw選手。。。
さて、どんな選択肢を取るのでしょうか?

🎥 ショット解説

Shaw選手の動画はこちらになります。
せっかくなので、ブレイク後〜Shaw選手のショットまで全部載せたいと思います。

▶️ 状況

  • プッシュアウト後、Ouschan選手がパスしたため、Shaw選手のプレーが継続。
  • 手球と4番が近すぎる&2番が遠すぎてジャンプショットは使えない。
  • クッションから当てようとしても4番が邪魔して角度がほとんど使えない。
  • 7−10でShaw選手は負けている状況。

🛠 分析

このショットのポイントは、マッセショット、、、という訳ではなく、この絶望的な状況でどうするのかということです。

先ほどの流れで見た通り、Ouschan選手も苦笑いするようなプッシュアウトにShaw選手は最初から決めていたようにマッセの構えに入ります。
これをプッシュアウト時のエクステンションで考えていたんですね!びっくりです。
流石にプロ選手のなかでもこのショット選択をする人はそうそういないと思います、、、

そして、このショット、、、実は普通に失敗します。
ただ、全然違うというわけではなく、曲がりすぎて手前の7番に当たってしまうという形でした。

なんで負けている状況でそんな無謀なことするの、、、というのが正直な印象でしたが、
何回か動画を見続けて別の観点で分かったことがありました。

まずこの画像を見てください。

この画像はShaw選手がマッセした後に抜き出された観客の映像です。
拍手をしたり笑顔になったりして、Shaw選手を称えているんですね!

しかもこの流れを決定づけることが起こります。

少し長い8番ですが、これまでの試合の流れでいうと、Ouschan選手なら全然決められるショットだったのに、外してしまいました。
この時に、観客の歓声がShaw選手に明らかに向いているんですよね!動画でもOuschan選手が外して席についてから後ろの観客の方がずっと拍手してShawを迎え入れているんですよね!

さらにさらに、この8番9番を取り切った後、明らかに今までのラック以上の歓声が上がっていました。

つまり何が言いたいかというと、失敗したマッセショットでしたが、あのチャレンジショットが観客をShaw選手に惹きつけたということなんですね!
Ouschan選手にとっては悪夢のような瞬間であったと思います。

極意

さて、それではあのマッセショットについて考察してみたいと思います。
ここでの考察はショット選択をしたShaw選手の思考と選択されたOuschan選手の思考の両面から考察していきたいと思います。

もちろんこれは私の個人的な感想なので、お二人の真意は分かりませんが、考察することで、プレー中にどういう思考を持てば良いかの参考になると思うので、読んでいただければ嬉しいです。

Shaw選手の視点

5−10から7−10でまだまだ追いつくぞという時にブレイク後最悪の配置が回ってきました。
普通の人なら、「なんでこんな不運なことが今起こるんだ」とか「流れが完全に相手に行っている」と」思ってしまうのではないでしょうか。

ところがShaw選手は違いました。プッシュアウトの時から活路をなんとか見出そうと時間を使って思考していました。そして、自分に回ってきた場合は、他の選手では取りえないチャレンジショットをしようと考えていたわけですね。

このショット選択のメリットとしては下記があると思います。

  • この人に回したら何かされるという恐怖心を受け付けられる(成否にかかわらず)
  • ほぼ失敗する確率が高いので、成功すれば儲け物なので、気軽に打てる

つまり、難易度の高いショットであればあるほど、自分のプレッシャーは少なく、成功した時は相手に大きなインパクトを与えられるということですね。ピンチはチャンスとはよく言ったものですね。

そして、どうせやるなら空クッションやジャンプショットでもなく、もっと難易度の高いマッセショットを選択したと私は考えています。

Ouschan選手の視点

では、Ouschan選手側はどう感じていたのでしょうか?

まず切り抜きでもみた通り、プッシュアウトがきた後、席を立たずにパスしていました。
さらに苦笑い、、、
明らかに「これは流石に無理だろう」と思っていたと思います。

そこに想像していなかったマッセショットを見せられたら、フリーボールが回ってきたとはいえ、とてもびっくりすると思います。もしかしたら試合中なのに、自分だったらどうしていたかなど余計なことを考え始めてしまう方もいらっしゃるかもしれませんね。

さらに8番をシュートミスした際に観客の雰囲気が今までと変わってしまったことにも気づいてしまいます。自分がアウェーなのではないかと。

試合の最初から最後まで通してアウェーならまだ対策できますが、試合中に観客の反応が変わるというのはなかなか無い状況だと思います。

おそらくですが、Ouschan選手自身も試合の流れが変わるかもしれないと思ってしまったと思います。

二人の視点を整理

両者の思考を考察することで、ショット選択とメンタルの持ち方における重要なことが見えてきました。

一つ目は、あえてリスクを取ることで、相手にプレッシャーを与えることも時には有効。特にもう選択肢が無い時に効果を発揮する
これはShaw選手側の視点からわかりましたが、マッセを選択した通り、相手が想像できない選択肢を取る方がより効力が高いです。
また、私が普段でる試合では観客もここまでいない(JPAのチームメンバーくらい)ので、強調はしませんが、観客を味方につけられるというのも一つのメリットですね。

二つ目は、どんなに有利な状況でも相手ができる前提・自分に不運が起こり得ると構えておいた方が良い。Ouschan選手は明らかにこのショットは無理だと構えてしまっていたところにマッセでかなり惜しいショットだったので、少なからず動揺があったと思います。さらに自身も勝負所の8番を外してしまい、流れを感じてしまった。こういったマイナス要素にあらかじめ対処できるように、最悪のケースを想定しておくというのは一定大事ですね。
もちろん、シュートが外れるかもしれないと常に考えてしまうのは自信をなくす原因にもなるため、そことの割り切りは考えなければならないです。

📝 まとめ

今回の「clutch moment」は、観客を味方につけるほどの成功確率の低いショットをあえて選択するということでした。
なお、Shaw選手は時々普通の人が選択しないショットをやってくれることもあり、とても魅力的な選手です。ですが、それはこれまでの経験に裏付けられた自分自身のビリヤードに自信があるからこそ、できるショットです。

Shaw選手の活躍はモスコニカップやプレミアリーグでも見れますので、ぜひそちらも見て、たくさん引き出しを増やしていただければと思います!

気になることや「このショットも解説して!」というリクエストがあれば、X(@position_taro)までお気軽にどうぞ!

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