本日の動画
今回の解説動画は、European Open(ヨーロッパオープン)決勝戦:David Alcaide(スペイン) vs Anton Raga(フィリピン)の試合になります。
この試合はなんと3セットより差がついたところがない、非常に均衡した試合です。
また、この試合はヒルヒルまで縺れ込む大接戦で最終25ラックは神様がどちらを優勝させたいか決めかねている、、、そんな試合に感じました。なかなか1試合が3時間も続くことはまずないです!
また、もう一つ。この試合の最終ラックで物議を醸したショット選択があったのですが、、、それは皆さんに観ていただきたいので、この記事では一切触れておりません。
🎯 勝負の分かれ目 – Clutch Moment
この試合のターニングポイントは、第24ラック2番のセーフティ選択肢!そしてその後のショット!
11−8で負けていたRaga選手が怒涛の巻き返して、11−12と逆転しブレイク後の配置で選択したショットです。
🏟️ 試合の流れ
ヨーロッパオープンという名前だけAlcaide選手がホームという感じでした。
また世界ランクも当時Alcaide(26)vsRaga(114)と圧倒的な差がありました。
さらにさらに、Alcaide選手は45歳、Raga選手は26歳であり、キャリア的にも圧倒的な差がありました。
ところが、下馬評とは翻って、なんと11−8でリードしていたAlcaide選手が4連取され、逆に王手をかけられるという流れでした。そんな王手がかかったラックの初期配置が下図になります。

2番のシュートはありますが、次の球が4番なのでどうするか、、、悩みどころです。
ただし、Raga選手はこの試合中を通してひねりとキュースピードでとんでもない出しを繰り返していたので、間違いなくシュートを選択すると思っていました。
ましてや、これまでの流れでも圧倒的にスーパーショットを連発していたので、攻めていくものだと思っていました。
🎥 ショット解説
スーパーセーフティショットはこのリンクから確認ください。
▶️ 状況
- 2のシュートがあるが、ストップorドローだと4が厳しいため、左上を押して、6の下→5−8の間を通って4に出す選択肢がある
- 2の周りに球がないため、簡単なセーフティがない
- このセットを取り切れば、Raga選手は優勝できる
🛠 分析
このショットのポイントは圧倒的なプレッシャーの中で、自分のビリヤードを貫けるか!?ということだと思います。
最初にお断りをしておきますが、正直私には世界1位を決める大会のプレッシャーを感じることはこの人生で無いと思うので、Raga選手の気持ちを推し量ることはできないです。
ただし、小さいながらもJPAの試合の教訓として生かしていきたいという意味でここからの考察を読んでいただければ幸いです。
まず、この動画の切り抜きをRaga選手のルーティンからフォーカスしているのですが、明らかに今までのショットリズムと異なり、何度もヘッドアップしては素振りして構え直しています。
ここから相当プレッシャーを感じているのだなと想像します。
(エクステンション無かったんですかね、、、)
結果的にこのセーフティショットは角度が良くなかったか、スピードがありすぎたかのいずれかで、手玉が隠れずに出てしまい、2番も5番に当たって見える位置に来てしまいました。もしかすると5の左側に当てるようにセーフティしたかったかもしれません。
対して、回ってきたAlcaide選手です。
距離はありますが、シュートがある状況で、エクステンションを使って冷静に構えます。

このショットを問題なく決めたAlcaide選手はこの後の球を全て取り切ってヒルヒルに持ち込むことができました。4連取後の取りきりをストップしたとてつもなく大きい1撞きでした。

誤解のないようにすると、この動画で私が得たのは、セーフティを選んだのが間違いだったということではないです。むしろセーフティの選択肢は安定していると思います。
おそらくですが、Raga選手がシュートに行ったとしても、この時は上手くいかなかったのではないでしょうか。
ビリヤードはいくら練習しても、試合で必ず同じショットができるかというとかなり難しいスポーツです。どんな時も冷静に場を見つめ直して、自分にできる最高のショットがなんなのかだけを考える精神が重要だと気づきました。
ただ、Raga選手はこの試合が本当にすごかったので、別の記事でスーパーショットをご紹介させてください。(私は全てのビリヤードプロ選手を尊敬しております)
イフストーリー
話は戻って、もし我々がRaga選手の立場になったらどの選択肢を取れば良いか考えておきましょう笑
選択肢としては、セーフティを取るにしても、他の選択肢がなかったかを考えたいと思います。
- 2にど厚に当てて7を挟むような配置にする
- 2の右側に当てて2を少し横に、手玉を下の短クッション→上の短クッションに走らせる

①2にど厚に当てて7を挟むような配置にする
この場合、力加減がよっぽど弱かったり恐ろしく強すぎたりしなければできるショットなので、難易度はそこまで高くないように思います。力加減としては、バンキングをつく力加減で良いと思います。(ちょうどバンキングラインに手球が乗っているので)
②2の右側に当てて2を少し横に、手玉を下の短クッション→上の短クッションに走らせる
この場合、2にどこまで薄く当てられるかがポイントになってきます。もし厚くなると最悪で、左下のコーナーにシュートが狙える確率が高くなります。
なので、①よりも断然難易度が高いです。私の想定では、Raga選手のとった選択肢よりも②は無いかなと思います。
今回のイフストーリーとしては、2にど厚に当てる選択肢が一番良いのでは無いかなと思います。
もちろんRaga選手の選択肢ならば決まれば相手からフリーボールをもらえる可能性も高くなりますが、決勝戦の大舞台で確実性を求めていくことも一つ大事なことかと思っています。
📝 まとめ
今回の「clutch moment」は、プレッシャーを感じても、自分ができる最高の選択肢をとるということでした。若いRaga選手がミスになってしまい、ベテランのAlcaide選手が決めきったところにもそういった経験値の差が出ていたかもしれないですね。
気になることや「このショットも解説して!」というリクエストがあれば、X(@position_taro)までお気軽にどうぞ!